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4月自作/ 課題:桜 『長崎より出でてばーじにあに立つ』

2011.04.07 22:20|小説 『課題作品』
ローザと出会ったのは俺がまだ20歳の時だ。
長崎の商館で彼女はまだ14歳の小娘で、その少女の一家は新大陸からの来訪者だった。

俺は商館に出入りする商人の息子で、世間では8代将軍の徳川なにがしさんが
享保の改革を推し進め、その恩恵でウチの仕事の洋書輸入が活発になってきた。
そんな中、ながらく家同士でお付き合いしていたのがローザ家だ。ローザの父親は
宣教師だったが、貿易商として入国していた。ウチの曾爺さんは半世紀以上も前に
ローザ家の船に乗り込み、彼女の家の庭に日本の桜の木を植えてからの付き合い
らしい。もう亡くなっているので真偽のほどは定かではないけれど、ローザに
よれば確かに桜の木はあるらしい。


俺は、14歳にして5ヶ国語を話すローザに夢中になった。もちろん容姿も含めて。
5尺に満たない背丈。淡い金色の長い髪。夏の木漏れ日のようなキラキラした瞳、
細く長いそれでいて力強い脚、白粉を塗った女性よりもさら白く絹のように滑らかな肌。

ある日ローザが床に広げた大きな布には、繊細で質感のある絵が描かれていた。
高い山々が描かれていたり、どこまでも続く砂の大地や、青い海、その上に
散らばる小さな島々…それは、この世界の地図だという。
「私が住んでるのはね、ここ」
彼女は地図の中心にデンと据えられた大きな大陸の、右端の海に近い場所を指す。
「ふうむ」俺はわかったようなわからないような返事をして
「では、この長崎はどこで、この日の本の国はどこなのだ」
「朗馬の国はね…ここ」
それはまぁ、なんと儚げな、大海の波打ち際でひっそり泳ぐ小魚のような土地だ。
「…ま、まことか」
長崎はこんなに小さく、世界はこんなに大きいのか。
「遠いな…」ぽつりとつぶやく俺の言葉を拾い、
「私のお家から朗馬の国まで、2年以上かかったもの」
平然と恐ろしい事を言うローザ。世界とはなんと広いのだ。
長崎から堺までの船旅しか経験のない俺は、その約100倍もの長い時間を船の
中で過ごさなければならない過酷な工程を想像し身震いした

「私ね、この国では長崎が一番好き。素直で、清廉で、でもちゃんと芯があって。
その中でも朗馬は飛び抜けて特別だよ。あなたは私史上一番の人」
冬の終わりの日、わずか14歳の娘っ子にそんな告白をされて、俺は舞い上がる
よりも来月に迫ったローザ家の帰国の後の喪失感を想像してしまい、まさか自分
の中でこれほどローザの存在が大きくなっているとは…ほとんど恐怖と言って
いい想いにただ愕然とするばかりだった。

別れの日、俺は港に行く勇気がなく、場末の酒場で飲んだくれていた。
その前日、ローザとは最後の言葉を交わしていた。
「私の航海はこれが最初で最後。もう我侭は言えないわ。ホントは女の子なんて
船に同乗してはいけないの。でも私はあの桜の母国が見たかった。だから言葉を
覚えて役に立つってパパに売り込んだの」そう話すローザの言葉を、俺は霞の
むこうの囁きのように聞いていた。最後なんだ。明日で最後なんだ……
呆ける俺の向かい側で、ローザは突然立ち上がり
「はい!ここでクエスチョン、朗馬」キョトンとする俺
「私がこの世で一番大切にしている言葉は何?」
「な、なに?…愛?」
「ブーーッ 答えはウチの桜の木に彫ってあります。じゃあね朗馬、楽しかったよ」
言うが早いか駆け出して行ったローザを、俺は追えなかった。
追えない自分が情けなかった。

そして今日、遠くで出航の鐘が鳴り、桜の花びらが春風に乗って海の向こうに消えて
いった。
それから10年の歳月が経ったが、あれ以来ローザ家が長崎を訪れることはなかった。


そして30歳になってもまだ俺は独り身だ。
忘れられない想いと言うより忘れたくないのだ。
だったらなぜあの時追いかけなかったのか、自問自答の10年。
そしてついに家を飛び出した。

それから9年の歳月をかけ、あの時見せられた世界地図の記憶だけを頼りに
ようやくアメリカ大陸東海岸に上陸、18世紀はじめのバージニア州に足を
踏み入れた。
そして一冬かけてフレデリックスバーグ中の農園を一軒一軒調べて、やっと
ローザの住む家を見つけた時はもう、日本を出てから10回目の春になっていた。

その丘には確かに、樹齢100年近い桜の木が1本、凛として立っていた。
俺はそっとその木に近づき、愛おしく樹肌を撫でた。ふと、指先に引っかかりを
感じて手をとめよくみると、文字が彫られていた。

「あら、ひさしぶりね」

その時、後ろから懐かしい声がした。大人の女性の声だが、わかる。
だがその挨拶はないだろう?20年ぶりだぞ。大変だったんだぞ。
でもいまは振り向けない。顔がドロドロだし、涙でくしゃくしゃだ。
風呂も2ヶ月くらい入ってないし。少し身なりは整えたかった。
そんな理由で逡巡していると、背中に両手が当てられた。
そしてローザの高い鼻が背中にあたる感触がした。


舞い落ちる桜の花びらがゆっくりと時間を巻き戻しはじめた。




兵卒物語 07)エダム

2011.04.07 15:15|小説 『兵卒物語』


気を失ってくれて助かった。
溺れている人を助けるのは、本当に骨が折れる。
ジェイが池で溺れた時もそうだった。あの時はジンと二人掛かりで引き揚げたっけ。

背後で水音がふたつ。
下っ端が追いかけてきたのか。
急いでギーズを対岸の岩陰に引き上げ、飲んだ水を吐き出させる。
「げほっげほっ…ばかや…ろう!援けるのは…俺じゃねぇだろ!」
「…ギーズさん、僕はね」背中に装着していた槍を外し、構える。

「もう目の前で、仲間が死ぬところを見たくないんです」…静かに言い放つ。

「…ふん、ガキが…あめえんだよ! 婆ぁと嬢ちゃんが大変なことになってるぜ」
「あの方は大丈夫です」僕の記憶に間違いがなければ…
「なに?なに自信満々なんだよ?」いぶかしげにギーズが聞いてくるが、無視する。

あの方たちは、山賊ごときにやられない。
僕たちが近くにいた方が、力を発揮できないだろう。だから離れた。

昨日の夜更け、僕は聞いてしまった。オルダさんと姫の会話を。
となると、姫は誰?って夜中ずっと考えていた。あの、ガズー様が連れていた子が
姫じゃなくこの子で、この子と姫が同一人物じゃないとしたら…
たまにガズー様に内緒で、僕たち3人にいろんな魔法を見せてくれたあの子なら…
姫様は魔導師?いやそうじゃなくて、姫様じゃなくて魔導師?…

僕は自分の中のジンと対話して、いろんな可能性を構築しては消していき、ある結論に達した。

この子は姫の影武者。
そして大魔導師ガズー様の弟子。
オルダは知っている。
ギーズは知らない。
僕(エダム)にも知られていないと思っている。
男2人にはできるかぎり知られたくない。
あの子とオルダはあと2週間は逃避行を続けるつもりでいる。

そして…敵の面前で死のうとしている。

昔の自分だったら絶対思いつかない。僕の頭の中のジンがヒントをくれて導きだした答え。
でも、それほど間違っているとは思わない。

そして僕はこれからどうしたらいい?
ジンならどうしてた?ジェイならどうしてた?僕たち3人は最後になんと言っていた?
そのあたりまで考えてて、睡魔の波に呑み込まれてしまった。

そして山賊の出現。

僕の中のジェイは姫から離れるなという。
僕の中のジンは姫から離れろという。
「今ならまだ大丈夫。こんなとこで山賊ごときにやられるわけがない」自信満々のジン
「でも俺たちが姫様の盾にならなきゃ。」心やさしい素直なジェイ
「俺たちがいたら、魔法を使いづらい。レディーの嗜みってやつさ」結局ジンの言葉で
僕は、馬車から離れても仕方ないって思っていた。心配だけどそれが一番いい方法なら
従うまでだ。

そういう流れで僕は川に飛び込んだ。

ギーズさんはまだ怒ってる。この人って、お金第一で冷たいイメージだと思ってたけど
なんだかちょっと違うようだ。そのことをコソッと言ってみる。
「ば、馬鹿野郎。スポンサーに死なれたら、金が入ってこないだろうが!」
と凄んだ裏で、「おめぇ、よそで俺が本当は優しいだのなんだのって、言ったら…」下っ端が
斬りかかってきたのをいなし、剣を奪う。「殺すからな」
「わかってますよ。大丈夫。評判を落とすようなことは言いません」僕はギーズさんの機嫌を
取りながら、聞耳を立てる。ほんの一瞬のうちに、こちらに追いかけてきた下っ端2人を
片づけた。本当にギーズさんは強い。そしてあの体術使いもまた、強い。

やがて、対岸から伝わってきた空気の振動が肌に響く。ピリピリする。
そして爆発!魔法特有の圧力の高い空気の塊みたいなのが飛散する。
よかった。ギーズは気づいてない。魔法に疎いようだ。だが遅れてきた音には即座に反応した。
「なんだぁ、婆さん爆弾でも持ってたか?」
「みたいですね。音の爆弾のようです」調子を合わせる。

対岸に戻ると、山賊たちはみな耳を押さえてうずくまっている。音の魔法だろう。小さい時
あの子が得意だった魔法。どんなに鍛えていても、あれを耳元でやられるとしばらく動けない。
やられた本人の保証付き。カエルを鞄に入れた仕返しにやられた思い出が蘇る。軽くやられただけ
なのにジンだけは半日動けなかった。
この大きさだと鼓膜は破れているかもしれない。あの体術使いなど逆に感覚にすぐれている人間への、
ダメージは倍加する。かわいそうだが数日はまともに歩けないだろう。

「ふん、無事だったか」オルダさんが気のないそぶりで言う。
「そりゃぁこっちのセリフだ。音の爆弾なんてもってるんなら最初から言っといてくれよ」
ギーズさんが文句を言う。
「護身用兵器はたくさんあるさ。なにせ狼どもと旅をするんじゃからな」
「おそわねぇよ」突っ込むギーズさん。

「さぁ、はやくこの場所から離れましょう」
何事もなかったように僕は言い、僕たちの姫様に目配せをした。

兵卒物語 06)ギーズ

2011.04.07 15:14|小説 『兵卒物語』

なんてこった。
7人…いや8人か。かなり近い。囲まれてる。
明け方、微かな気配で目が覚めた俺は、2秒でかなり正確に状況を把握した。

こいつは参ったな。飯がうますぎて緊張感が解けちまった。
いつもは囲まれる前に、近付いてくる敵を各個撃破して向うの前線に穴をあけるんだが
こうも近付かれると、1対3とか4とかの状況になっちまう。

とはいえ、足の運びや衣擦れの音から、囲んでる奴らがたいした装備じゃないのがわかる。
しかも戦闘経験は低い。出来るだけ無音で近付こうとしているのは、戦闘技術が高くないからだ。
剣技にたけていたら、もっと距離のあるところからでも平気で襲いかかってくる。

だが…
厄介そうなのが1人…いや2人か。
大曲刀の奴と無手の奴。こいつらを先に斃しちまえば、あとはあのボクちゃん(エダム)でも
なんとかなるんだが、いかんせん距離がなさすぎる。

逃げるか?
いやいや、初日でしかも山賊ごときで逃げたら俺の評判に傷がつく。
とにかくこいつを…
「おい坊主!起きろ」小声で鋭く囁き、エダムを覚醒させる。
「あ、ギーズさん、どうし…」覚醒の途中で事態に気付く。遅いんだよ。
馬車の扉を叩いてふたりを起こす。
驚いたことに姫さんも婆さんも起きていて、「囲まれてますね」事態を把握している。

「すまねぇ、ちょっと油断しちまった。とにかく馬車で突破する。坊主!後ろの荷台は捨てろ」

この馬車は馬が2頭で牽いている。いざと言うときは馬車を切り離し馬だけで2人ずつのせて
距離を稼ぐという手もある。向うは徒歩だ。

だが敵さんもそこそこやる。馬車が通りそうな場所に人を配置し徐々に態勢の悪い場所に
追い込まれているようだ。わからないが、たぶんこのまま進むと行き止まりになりそうだ。

Uターンできるぎりぎりのところで方向転換し、叫ぶ。

「婆さん!馬扱えるか?」
「私がやります!」姫か!?ふふん、見た感じおしとやかそうだが、やんちゃそうな気がしたよ。
「よし、かわれ。…坊主!いくぞ」とにかく相手の人数を少し減らさないと、どうにも動きが
取りづらい。手綱を姫に渡し、飛び降りる。後ろからエダムが続く。

左に2人、右に2人、その後方にヤバそうな大曲刀と無手。さらに後方にあと2人。

思った通り統制はとれてねえ。連携もくそもなくただ囲んでるだけだ。こういう集団は
頭を潰すと崩壊する、が…大曲刀が前に出てきた。おそらくNo.2だ。頭はあの無手だろう。

「馬と荷、それと女をを置いていけ。したらお前らの命までは取らない」大曲刀が言う。
「婆さんがいるが、どうする?」俺はニヤリと笑って言いかえす。
「ばばぁも女だ。置いていけ」
「婆さん良かったじゃねーか。まだまだ女として見てもらえてるぜ」
「当然だ。私はこう見えて宮廷では殿方の…」「オルダ!」姫さんが頬を赤らめて遮る。
まったく…緊張感のない奴らだぜ。だが…
「嬢ちゃんはどうでもいいが、婆さんはわたせねえな」シャラリ。黒鋼の長剣を抜く。

スパンッ 一の刃で右の2人の腿と脛を斬る。とにかくこの場は動けなくすることが重要で
命まで奪う必要はない。だが…浅い。が、勢いそのままに大曲刀へ斬りかかる。

ガツンッ 刃で受けられる。岩に斬りかかったような手ごたえ、手が痺れる。
そのまま押し返されて、逆に斬りかかられる。

ズサッ 紙一重でよけたつもりが、頬を斬られる。下から上に二の太刀、これもよけたつもりが
肩を浅く斬られる。三の太刀、袈裟斬り。これは剣で受け流す。戻りが速い。だが…俺よりは遅い。
刀の戻り際を狙って、右手の親指を切り落とす。成功。

「ぐあぁ」利き腕の親指だ。当分剣は握れまい。

ちらとエダムをみる。なんとか左の二人を押しとどめている。ほう、少しはやれるな。
決して気を抜いていたわけではないが、馬車の2人とエダムの事を気にしながら戦っていたのは
事実だ。

ドオォン
一瞬何が起こったのかわからないまま、膝をついた。なんだ?なにがおこった?
息が出来ねぇ…鳩尾か?…あ、あの無手のヤツか?
まったく戦う姿勢を取れないまま、今度は左から両手が突き出された。

ぐはぁ 先の大曲刀使いと同じように今度は俺が地面にはいつくばった。こいつぁつえぇ…
割りにあわねぇ、あんな前金じゃたりねぇぞ。

どうする?どうする?
考えている余裕を与えずに、這いつくばっている俺の腹につま先がめり込む。この体術使い野郎!
吹っ飛ばされて川に落ちる。しまった!流れが速い!
「にげっがは…ごぼ…」強烈な蹴りで横隔膜が痙攣して息が出来ねぇ…溺れる…マジか
こんなところで傭兵人生終わっちまうのか…

視界の隅にエダムが川に飛び込む姿が映る。

バカが…援けるのはあっちだろうよ

意識が遠のいていく…

兵卒物語 05)オルダ

2011.04.07 15:13|小説 『兵卒物語』


お城に敵兵が攻め込んできて、王宮が騒然となっていた時、私は大魔導師ガズー様から
この話を相談され、二つ返事で承諾したのでございます。
もちろん、ガズー様は老い先短い私の活用法と、これからの本物の姫の強行突破において、
私が足手まといになることを考慮して、本隊同行からは外されたわけではあるのですが、
何よりこの配役は、私以外にこなせそうにありません。

ドリィをより姫らしくし、また姫として恥ずかしくないように散らしめるのは、この
先々代王より仕え、女官歴四半世紀を超える私オルダの天命として承りました。

準備された商人用の馬車に乗り込み、ドリィの着替えを手伝います。絹の服から木綿の質素なものへ
貴金属はすべて取り払い、座席下の金庫に仕舞う。ギーズが馬を操り、エダムは後ろの荷台の
中や、ギーズの隣、馬車の中と、状況に合わせて移動する。
この森の間道をぬけ、山を3つ越えたところに最初の目的地エルフの森があるのですが、そこに
辿り着くまでに大きな街を2つ通過しなければなりません。もちろん平時は私たちの王国の統轄下
にある街なのですが、今ははたしてどういう状況なのかもわかりません。

一番困るのは、あっという間に殺されるか捕えられることで、一番理想的なのは、宿屋にいる
状況で周りを敵兵に囲まれることでございます。ドリィの魔法は死んだら解けてしまいます。
つまり顔が元に戻ってしまうのです。ドリィもそのあたりを危惧して、常に火炎壺と爆弾を
身につけ死体の顔をきれいに残さないように心がけております。ですから、囲まれて火による
自害という筋書きが、一番あやしまれないと考えております。もし、ドリィが自害する前に
命を絶たれるようなことがあれば、私オルダがその身をもってドリィの顔を破壊する所存で
ございます。

そうすることによって、いつかは事実が判明するでしょうが、それ迄のしばらくの間、時間を
稼げるのです。またそれがガズー様の仕掛けたある魔法の発動の鍵となるのです。

これが戦乱の世に生を受けた女の使命でございます。兵卒の使命でございます。

そしてこの一行でやはり一番心配なのは、名もなき盗賊に襲われることでございます。
その為に上納品としての金品は用意してはおりますが、やはりギーズとエダムがどこまで
期待する働きができるのかが全くの未知数ですから。とくにギーズは雇ってまだ日も浅く、
どことなく危険な雰囲気をもっており、それがまた信用のできない一因でもあるのでございます。

森を抜けるとあとは街道沿いに進むので、野盗、盗賊の類を心配する必要がほぼなくなります。
ですので最初の街まで辿り着いたら、ギーズは契約解除したほうがよいような気がします。

ともかく森を抜けるまであと3日ほど掛かるので、まずその工程を乗り切らねばなりません。
まだ痕跡や足跡をそれほど残していない状態で、敵兵ならともかく、野盗ごとにき命を奪われる
ことになったら、この囮逃避行の意味がほとんどなくなってしまいます。出来るだけ長く遠くに
逃げて、その上で敵に発見され自害するというのが、このオルダの筋書きなのです。

我が守護神エルドュプスよ、それまで我と我が一行を守りたまえ…
エルドュプスは料理の神ではございますが、この際すこし融通を効かせていただきましょう。

ともかくガズー様からお聞きした予定の日までには、あと最低2週間は生き延びねばなりません。

「おい婆さん、そろそろあったけ~飯が喰いていんだがよ」ギーズがガナリ立てる。
「ふむ」そろそろ日が沈む。夜移動する手も準備はしてるのですが、この面子ではかえって
危険度が増すように思います。
「では、野宿できそうな場所を探しなさい」

しばらくして森の中に泉を見つけ、横に少し開けた場所があったので、そこで小さな火を起こした。
泉で汲んだ水を持ってきた鍋に入れ火にかける。
どんな時でも私はまずお湯を沸かす。その間にいろいろと考える。それが習慣なのです。
食材はたいしたものがない。乾燥させた鹿肉、木の実、偽装のために積んでいる玉ねぎ、杏ジャム、
バター、チーズ、赤ワイン、干した茸類、小麦粉。ただしスバイスはかなりの種類と量を持ってきた。
薬としても使うためだが、少しくらい使ってもかまわないだろう。
そうだ、ちょっとスパイシーな鹿肉のシチューを作ろう。疲れた神経をほぐすにはいいかも知れない。

「おおっいい匂いじゃねえか。婆さん、あんたやるな。ただもんじゃねえな」偵察から帰ってきた
ギーズが子供のようにはしゃぐのが少しおかしい。

「今頃気がついた?婆やは王国厨房のご意見番オルドゥプスなの」姫(ドリィ)が持ち上げる。

「いやホントにおいしいです。オルダさん。こんなにおいしい料理は生まれて初めてかもしれない」
エダムがうっすら涙をためながらシチューを啜る。

この感じは…まぁ悪くはないわね。

兵卒物語 04)ドリィ

2011.04.07 15:12|小説 『兵卒物語』


信じられなかった。
3人と笑って再会できると思っていた。
特にジン、あなたにはたくさんお話したいことがあった。
私の素姓のこと。これからのこと。ジンならチカラになってくれると信じていた。

どうしよう。どうしたらいいんだろう。
この不安をエダムに悟られないように、ちょっと怒った口調になってしまった。
エダム。3人の中で一番優柔不断で、体も小さく、体力もない。
でもこの子は生き残った。それが重要なんだ。そう思うことにした。

私の本当の名前はドリィ。…姫じゃない。
父も母も知らない。物心ついたときには大魔導師ガズー様に育てられていた。この人が
母親だと思えたらどれだけ幸せだっただろう。だがそうではなく、最初から私たちは
師と弟子だった。

私の唯一といっていい子供のころの楽しい思い出は、城の施設であの3人と遊んだ
日々だった。あのガズー様がそんなことを許してくれるとは思ってもいなかった。
お菓子を両腕いっぱいに抱えた彼女のそういう一面は、本当の姿なのか、仮の姿なのか
判断に苦しんだ。最初は警戒してなかなか遊べなかったけど、今こうして手を引っぱって
いるエダムが、その時は私の手を引っぱって、みんなのもとへ連れていってくれた。

んふっ。生真面目なジェイにラブレターの書き方を教えたのは私だ。
私の下書きを参考にしたらって言ったのに、そのまま写して裁縫屋のあの子に渡したんだ。
でも名前のところはちゃんとあの子の名前にしなきゃ。下書きの名前はジンだったのに。
あれは私がジンに宛てたラブレターだったのに。ちょっと抜けてるジェイはそのまま
書いちゃったんだね。

ジン。あなたは私を、魔法の修行しかしていなかった私を、人間らしい、女の子らしい
表情ができる子供にしてくれたんだよ。あなたが教えてくれた魔法でも何でもない
オマジナイの言葉は、いつでも私を豊かにしてくれた。それは百の魔法を覚えるより
私を私でいさせてくれた。
あなたにお礼が言いたかった。あなたに好きと伝えたかった。
でももうそのチャンスは、ないんだよね・・・

私は、姫様の替え玉になるよう訓練された魔法使い。大魔導師ガズー様の弟子ドリィ。
あなたが生きていたら、使命より自分を優先させていたと思う。だけどもうあなたはいない。
だから名乗らない。明かさない。魔法で変えているこの顔の下の素顔を見せることもない。
姫として逃げ、姫として死ぬ。それが私の人生。

地下通路を抜けると小さな泉があり、その傍に軽装の戦士と、老人と言っていい女官がいた。

結局やはりこの二人を残して行ったのか…
私はぐっとため息を堪えて、ふたりに微笑みかけた。

「おふたりに紹介します。彼はエダム。ドラゴンスレイヤーです。」
「え!な、ちっ、ちが…うぐっ」どもるエダムの足を踏んで黙らす。
「普通の槍で、リザードマンを倒せるのはドラゴンスレイヤーだけです。」

「ほう、あんたトカゲ頭を一人でやったのか?そのしょぼい槍で?」
戦士が疑うような目つきでエダムをみる。
「それより姫さんよぉ、あんた、本当に本物だろうな?」
「無礼な。傭兵の分際で姫に馴れ馴れしい口を訊くものではないわ!」横から年老いた女官が
叱咤する。
「ふふん…まぁいいさ、報酬さえもらえればな」

ギーズという名のこの傭兵は油断ならない。隙を見せたらとんでもないことになりそうだ。
私は女官のオルダに顔を向けて目配せをした。
オルダはかすかに頷き、諭すように話し始めた。
「ここからは、いかに注意深く隠密行動が出来るかが鍵です。私たちの目標は、目立たず静かに
エルウィンの森のエルフのもとへ辿り着くことです。それにはこの人数の方がいいのです。
鋼の鎧を着た騎士たちが物々しく姫をお守りしているとすぐに敵に見つかってしまうでしょう。
私たちは、行商している家族に偽装して、旅をするのです。」

…本当は、本物の姫は、ガーディアンの結界魔法に護られて、私たちとは反対方向の砂漠の国
ザンダルクへ逃げる。私たちは出来るだけ敵の注意を引きながら、時間稼ぎをする。
こんな兵卒や傭兵や年老いた女官と本物の姫が逃避行をするわけがない。でもそれを信じさせ
なければいけない。

だからジン。あなたが生きていれば、私は使命を捨ててあなたと逃げていたかもしれない。
わかってる。あなたは仲間を見捨てない。他の二人をおいて私と逃げたりしない。
でもその空想は私を私でいさせてくれる。大切な、大切な私の空想。もう絶対実現しない空想。

よし。
だったら最後の最後まで足掻いてみよう。生き延びられるとは思わないけど、生きてる限り
足掻いてみよう。そしたらガズー様も認めてくれるかも。かあさまと呼ばせてくれるかも。
ジンも褒めてくれるかも。よくやったとキスしてくれるかも。空想では何でもありだ。

「さあ、行きましょう」
なんだか急に少し大人びたエダムが、先頭に立って歩き始めた。
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Author:どーしま(ディー)
堂島匠(ディー)の綴る他愛無い話で構成する自作小説と詩のブログ。

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