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兵卒物語 02)ンェグ

2011.04.06 16:49|小説 『兵卒物語』

私たちはリザードマンと呼ばれている。

私たちはその姿から、好戦的な種族と思われがちだが、実はそうではない。
外敵から村を守るために武器をとることはあっても、好んで侵略をすることはない。
それは私たちの村の環境が、至高のものであり、領土を増やす必要がないのだ。

たしかに私たちの中でも、武術に優れるものは傭兵として各国を渡り歩く猛者もいる。
だがそれはどの種族にもいるマイノリティであって、他のほとんどは平和に一生を終えたいと
考えているのだ。

ヤツが私の村に現れたのは去年の収穫祭の直前だった。
唐突に村の中央に現れたヤツのその風体は不吉な予感を漂わせていた。
まだ暑さの残る南国のこの時期に、真黒なコートですっぽり体を覆い、
赤いその目だけが異様に輝いていた。
そしてヤツは右手を静かに上げた。
次の瞬間、闇が村中を覆ったかと思うと、村の女子供は消えていた。
人質をとられた私たちは、ヤツに従うしかなかった。

「闇の疾風」という魔法がある。体を闇の風が覆うのだ。
ヤツはそれを私と仲間にかけた。凄く速く動ける。人間の視覚では捉えられない。
ただしこちらも皮膚を魔法の風によって徐々に切り刻まれる。どんな人間でも
1分持たない。私たちの鱗はそれを1時間耐えることができる。

先の戦いで、私たちはこの魔法により敵の王のいる本陣奥深くまで侵入した。
「王を倒せばこの戦いは終わる。そうすればまた村に帰ることができる」
ヤツの言葉に踊らされているだけなのかもしれないが、村を守るため、妻と子供を守る
ためには、戦うしかない。

王と王子、それに彼らを守る騎士たちは勇敢だった。本陣にいた彼らは総勢40人ほどだ。
対する私たちは100名で、しかも敵から姿は見えていない。
異変を感じて彼らの仲間が駆け付けるまでの数分で勝負をつけなければならない。
一方的な殺戮だと思われたその戦いが均衡したのは、王の統率力と騎士たちの技量がずば
抜けていたからだ。大テントの中に、立っている敵が王と王子だけになった時、私たちも
半数に減っていた。王も王子も立っているのが不思議なくらい何箇所も深い傷を負っている。
いくつかは致命傷だろう。私たちは闇の風に導かれ自陣に戻った。

「これで帰ることができる」みなが安堵の声を漏らした。

魔法の風で自慢の鱗はボロボロになったが、ようやく長い戦いにピリオドを打てた。
そう思っていた。

「まだ終わっていはいない」

ヤツがそういった時、斃すべきはヤツではないかとの誘惑にも似た感情が沸きあがった。

「まだ姫がいる。放っておけば即位して女王陛下になろう。今のうちに根を絶やしておく」

…ヤツははたしてこの戦いが終わった時、妻や子供たちを解放してくれるのか…
だがもう私たちに選択の余地はない。戦うしかない。
戦って勝つしか…

まもなく攻城戦が始まった。
王を失った敵の士気は高くなく、先の戦で主力を失い、今鎧を纏っているのは老人か
まだ年若い子供だ。それを感情を殺してなぎ倒す。
私たちも無傷なものなどおらず、多くは命にかかわるような怪我を負っていた。
「ンェグ、俺を喰らえ。お前とともに…」
息絶えた仲間の肉を一口飲み込む。お前を村につれて帰ってやる。

そしてついに敵の姫を王宮の奥へ追い詰めた。
魔法の結界で固められた扉を、ヤツがさらなる魔法で蹴破り、私たちは最後の戦いの間に
突入した。が、そこには敵の魔導師が一人いるだけだ。

「久しいな、ガズー」どうやらヤツの知り合いらしい。。
ヤツと旧知の敵魔導師は、寒々しい、静かでどこまでも深い目で、だた黙ってヤツを
見つめていた。そして唐突に二人が呪文を唱え始め、目に見えない魔法の圧力が
広間中に充満した。次の瞬間、無数の光の矢が敵魔導師の体に突き立つ…と「ムゥ」
ヤツが慌てる。ガズーと呼ばれたその敵魔導師の体からいきなり炎が溢れ…大爆発した。

爆風で私は別のフロアに吹き飛ばされた。そこは地下通路のようだ。
起き上がると目の前に3人の少年が槍を構えている。向かってきた。いい勇気だ。
曲刀で捌く。なかなかのコンビネーションだ。粗削りだが筋はいい。だが…

バズッ 

一番大きい少年を槍ごと袈裟切りにし、返す刀でリーダーの少年の足を裂く…が浅い。
その時その少年が何かを叫んでいた。異国の言葉で意味はわからないが
何となく理解できる。彼らも護るべきものがあり、それに命を懸けているのだと。

同じではないか。彼らも。この私も。

瞬間的に隙ができたようだ。リーダーが脇からしがみつき、私の傷ついたわき腹を
露出させる。爪で彼を引き裂くが、その隙に鱗の隙間から槍の穂先が潜り込んできた。
小柄な少年だ。これはさすがに致命傷だ。

どうやらここが私の終着点だ。
私は家族を守れたのだろうか…彼らは彼らの護るべきものを護れたのだろうか…
ああこれで…戦わずにすむな…

静かに闇が降りてきた。
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