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兵卒物語 03)エダム

2011.04.06 16:50|小説 『兵卒物語』
無我夢中だった。
ジンがトカゲ頭に内臓を抉られるのと同時に、僕の槍がトカゲ頭の体に潜り込んだ。
僕の槍をジンが導いてくれた。

なにも考えられない。
目の前で、ジェイが、ジンが斃される。

やっぱりと思う。敵はあまりにも強すぎる。

まさかとも思う。冗談が通じないジェイ。人一倍パワーがあって、でも戦士よりは農夫の方が絶対
似合ってた。寮のおばさんは「じゅんぼく」っていってた。意味はわかんないけど、響きはなんとなく
ジェイっぽい。

やっぱりと思う。トカゲ戦士の鱗は魔法の剣でしか傷つけられないって聞いてた。

まさかとも思う。どこか他人事なジン。冷静で頭もいい。なにより剣術はすごかった。ジンには槍より
剣を持たせたかったな。そしたら楽勝だったのに。施設の授業で蹴球をやった時コーチがジンを
「クレバーなヤツ」と言ってた。どんな意味がわかんなかいけど、なんとなくカッコいい。

やっぱりと思う。血と煙の臭い。王様も王子様ももういない。

まさかとも思う。3人はいつも一緒だった。僕がいじめられて仕返しに行くときも、棄てられた城壁の
地下を探検するときも、ジェイが裁縫屋の娘に告白しに行くときも、いつも一緒だった。

やっぱりと思う。負け戦だった。姫様も逃げた。

まさかとも思う。あんなに頑丈な体のジェイが死ぬはずがない。あんなに冷静で巧いジンがやられる
はずがない。

トカゲ頭はまだ生きていたが、とても動けそうじゃないし、なによりもうどうでもよかった。
ジェイもジンももう息をしていない。
僕は、どうすればいいかわからず、こぼれ出る二人の血を両手ですくっては、二人の傷口に戻した。
逃げていく生命をなんとか拾い集めようとしているみたいに。

「だめだよ、違うよ、だめだよ、そうじゃないよ」

何がだめなのかわからないけど、とにかく否定したかった。全てを認めたくなかった。
こんなことあるわけないじゃないか。だって僕は今、泣いてない。
まったく悲しくない。涙なんて出ない。

「さぁ、早く行こうよ。姫に追いつこうよ。遅れちゃうよ」

二人は喋らない。ここにいないみたいに。
僕はただ座り込んで、二人の冷たくなった手を掴んでいた。
次に目の前に現れるのは、絶対敵だ。バカな僕でもそれはわかる。ここに味方はいない。
それで全てが終わるのならそれでもいいや。ごめん。もう疲れちゃったよ。

ふいに僕の背中に手が置かれた。
ありえないのはわかってたけど、僕は「ジン!ジェイ!」と叫んで後ろを振り返った。

この灯りの少ない地下通路で、あたりが薄暗かったのもあるけど、その人物をまったく予想して
いなかったので、しばらく誰だかわからなかった。

「ひ、姫様、どうして…」

「…エダム、行きましょう」

姫様は僕の名前を覚えてくれてたんだ。あんなに小さかった時のことを、僕たちのことを覚えて
くれてたんだ。そして突然何かの回路が繋がったように、体中から水分が溢れ出た。
あぁ、僕は二人と別れの言葉もかわしていない。
もう二度と、冗談を言いあったり、パンを取りあったり、風呂場で洗いっこしたり、夕日に向かって
並んで立ちションとか、もうできない。

現実が、薪を50本担いだときのように背中にめり込む。
下を向く。足元に水溜りが出来ている。まるで失禁したようだ。いや、しちゃったのか…

「前を向きなさいエダム。胸をはって」姫様が諭すように、怒ったように。
「あなたは生きてるの、エダム。生きてる人は生きることをあきらめちゃいけないの」

ふと思い出したように、姫様は瀕死のトカゲ頭の傍に跪き、二言三言やり取りをした。トカゲ頭は
急に穏やかな顔になり、こぽっと血を吐いて動かなくなった。

「いきましょう。みんなが待ってるわ」

こんな一兵卒のために敵がいるかもしれないところに一人で戻ってきたの?なぜ?
頭が冴えてくると、逆にわからないことだらけだ。ジンならわかった?ジェイは…無理だな。
ごめん、二人とも。これから頑張って強くなるよう努力する。だから僕、行くよ。また…いつか、ね。

死者の冷たい手を離し、差し出された生者の手を握り返した。

姫様の手は、暖かく力強かった。
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